ひとっこひとりいない、ひっそりとしたその小さな公園の隅っこには、小さくて地味な青い花が咲いています。
人も動物も虫も、その花には見向きもしないし、気づきません。
青い花は寂しくて悲しくて、毎日涙の蜜を流しました。それを気の毒に思った暖かい風が、その蜜の香りを遠くまで運んでくれました。
ずっと、ずっと遠くまで。人間の住む街を越え、動物の住む森を越え、虫たちの住む花畑まで風は香りを運びました。
その甘く芳しい香りの虜になったのは、一匹のミツバチでした。ミツバチは香りに酔いながら風に乗って青い花のもとへと向かいました。
虫たちの住む花畑を越え、動物の住む森を越え、人間の住む街の外れまでやってきました。
そこで彼は、なんとも控えめな模様で強烈な甘い香りを放つ青い花に出会ったのです。
ミツバチの黒い眼にはもう彼女しか映っていないのでしょう。青い花のもとへと急ぎ、彼はぴったりと彼女に寄り添いました。
一番驚いたのは青い花でした。でも彼女はすぐに花びらでミツバチを優しく包み込み、彼を受け入れました。
都会の隅っこで芽生えた小さな二つの恋。
やがてこの二つの恋は、一つの大きな愛へと変わってゆくのでしょう。
夏も終わる頃、ミツバチの姿はもうありませんでした。
また来年…。ミツバチは青い花に言ったのです。青い花はその言葉を信じて次の春を待ちました。
待ち続けました。秋が来てもずっとずっと。
でもミツバチは現れませんでした。悲しいけれど、青い花にはもう分かっていたのです。
青い花は、ミツバチと愛し合った事実だけを胸に、生きていこうと誓いました。
木の葉が散り始める季節の事でした。
数年後の春、青い花には新たなミツバチが寄り添っていました。
一つの愛が消えても、また新たな愛が生まれる。
生きていれば何度でも恋はできるのだから。
少し大人になった青い花はそう感じました。
見上げた空はすでに赤く、青い花はそれを眺め、少しだけ切なくなりました。
back